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年金激減に備える投資法 1/2 「文藝春秋」2010年2月号掲載

Akira Tachibana Archives

文藝春秋

年金激減に備える投資法 (橘玲)
  ──「不動産・日本株・預貯金セット」は最悪

月刊『文藝春秋』2010年2月号掲載




 世の中には、いろんな未来を予想するひとたちがいる。つい最近まで、日本国は破産して円は暴落すると騒いでいたら、いつのまにか超円高になってしまった。アメリカ帝国が世界を支配するのかと思っていたら、いまやドル崩壊が迫っているらしい。右往左往する予言に合わせて、推奨される投資商品も、中国株だったり、金や原油だったり、ドバイの不動産や南アフリカの通貨だったり千差万別で、どうすればいいのか呆然とするばかりだ。

  そこでここでは、誰もが認める常識から出発して、万人のためのきわめてシンプルな投資法を提案してみたい。


人的資本と金融資本のルール

  市場経済とは、お金がないと生きていけない社会だ。そしてお金を稼ぐ方法は、この世の中にたったふたつしかない。

  働いてお金を稼ぐちからのことを、人的資本という(要するに労働力のことだ)。稼いだお金が蓄積したものが、金融資本(預貯金)だ。このように整理すると、労働と投資を同じ土俵で考えることができる。すなわち、

  1. 人的資本を労働市場に投資する。
  2. 金融資本を金融市場に投資する。

  この二種類の「投資」以外に、お金は手に入らない。これが、第一のルールだ。

 人的資本と金融資本は、まったく違う特徴をもっている。

 人的資本は若いときほど大きく、年を取るにしたがって減っていく。人間の寿命には限りがあるから、これは仕方のないことだ。サラリーマンの生涯年収を3億円とすると、入社時の人的資本は約1億5000万円。これが65歳の退職時にはゼロになる。

  金融資産を運用するコスト(手間)は、金額の多寡に関係ない。逆に投資額が小さいと、運用対象が制限される。10万円を資産運用しようとすれば、預貯金か投資信託くらいしか選択肢がない(トヨタ株を買うにも40万円くらいは必要だ)。

  人的資本は、年齢が若いほど大きい。それに対して金融資本は、一般に年齢とともに増えていく。ということは、若いときに働いて、年をとってから資産運用することで、生涯にわたって労働市場と金融市場から安定して富を獲得することができる。

 これが、第二のルールだ。


資産運用を国家に外注するリスク

 リタイアすると人的資本はゼロになるから、あとは一人の投資家として生きていくしかない。これはきわめて当然のことだが、不思議なことに、それを自覚しているひとはほとんどいない。なぜだろう。

  それは、国民の大半が「年金」というかたちで、資産運用を日本国に外注(アウトソース)しているからだ。だから自分の年金資産が、国債や日本株(あるいは特殊法人や公共事業)に投資されていることを忘れてしまう。

  国民年金は、かつてはとてもよくできた仕組みだった。日本の年金は賦課方式と積立方式の混合で、高度成長期には少ない負担で大きな保証をしてもなんの問題もなかった。ところが少子高齢化によって現役世代の数が減り、低成長の時代になると、すべての歯車が逆回転し始めた。こうして年金は持続不可能な制度になってしまった――誰もが知っているように、これが日本国の最大の問題だ。

  こうしてひとびとは、国家に資産運用を外注しているリスクにはじめて気づいた。金融資産の大半を年金保険料として国家に拠出している以上、運用が破綻してしまえば、どこからも収入がなくなってしまう。そのことがリアルな恐怖として迫ってきたのだ。

  日本国の財政状況は日航と同じで、破綻必至のシステムを支えるために莫大な借金をつづけている。これについてはいろいろな意見があるが、無限に借金をすることはできないのだから、いずれは行き詰まるに決まっている。そうすると、次の四つのどれか(あるいはすべて)が起きる。

  1. 増税(保険料値上げ)
  2. 年金カット(自己負担増)
    これを避けるために赤字国債を発行しつづけると、
  3. 円安
  4. インフレ

  で調整される。政治的に解決できない以上、それがいつになるかはわからないが、国家財政の危機は必ず起こる。その大波からいかに身を守るかが、一人ひとりに問われている。

AICと橘玲の本


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