Richard Michael Nash
リチャード・マイケル・ナッシュ氏インタビュー

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Richard Michael Nash
1956年米国ユタ州生まれ。ワシントン州立大学で工学を、1976年国際基督教大学(ICU)で異文化間コミュニケーションを専攻。卒業後、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)日本支社AIU勤務。1985年カリフォルニア州立大学(UCLA)大学院入学、金融学専攻、経営修士号(MBA)取得。
モルガン・スタンレー投資銀行債券部勤務、三井信託銀行ロサンゼルス支店アシスタント・ヴァイス・プレジデント、プルデンシャル・リアルティ・グループ不動産・資産運用マネージャーを歴任。その後、香港でオフショア投資及びオフショア・バンキング業に従事し、現在は国際資産運用のスペシャリストとして活躍中。
著書に『日本人のためのオフショア金融センターの知識』(ダイヤモンド社)。「リチャード・マイケル・ナッシュの資産運用の学校」(海外投資を楽しむ会・主宰)で、今年4月より講師を務めている。



――「リチャード・マイケル・ナッシュの資産運用の学校」が開校されて、第1回の講義を終えられたわけですが、ご感想はいかがですか?

ナッシュ みなさん熱心でびっくりしました。こちらが緊張してしまうほどでしたね(笑)。

―― 会場の雰囲気を見ていると、参加者の方々がいちばん知りたがっていたのは、「ナッシュさんっていったいどんな人なんだろう?」ということだったようです(笑)。今日はそんなお話もおうかがいできればと思います。
 そもそも、ナッシュさんの日本体験というのは、いつ頃からなんですか?


ナッシュ 私は、父の仕事の関係で、3歳から13歳まで約10年間、横浜で過ごしました。日本というのは、私の少年時代の思い出の地なんです。

―― その時期に、日本語も覚えられたんですか?

ナッシュ 学校はインターナショナル・スクールだったんですが、近所の日本人の子どもたちとはよくいっしょに遊んでました(笑)。

―― そうすると、テレビなんかも日本のものを見ていたとか。

ナッシュ そうですね。『マグマ大使』とか『鉄人28号』とか『エイトマン』とか(笑)、大好きでしたね。

―― 世代がわかりますね(笑)。アイドルなんかもいたんですか?

ナッシュ タイガースやテンプターズなどのGS(グループサウンズ)の全盛期でしたからね。それと、小山ルミっていう、ミニスカートはいて、『さすらいのギター』とか歌っていたハーフの女の子がいたでしょ。強烈な印象でしたねえ(笑)。

―― 映画の『ケメ子の歌』とかにも出て、話題になってましたよね。それにしても子ども時代の体験は、ほんとに日本人と同じなんですね(笑)。
 で、アメリカに戻られた後はどうだったんですか?


ナッシュ ジュニア・ハイスクールに編入した後、ワシントン州の高校からワシントン州立大学に進んで、大学2年の時、交換留学でICU(国際基督教大学)に来ました。最初は1年だけの予定だったのですが、そのうちに「やはり日本のほうが自分にあってる」と思い始めて、そのままICUに転入したんです。

―― 専攻されたのは何だったんですか?

ナッシュ 異文化間コミュニケーション論です。その当時は国際弁護士になりたくて、経済関係の道に進もうとはあまり考えていなかったんです。その後ICUを卒業して、AIU(アメリカの大手保険会社)や外資系企業相手の不動産会社で働くようになってから、本格的にファイナンスを勉強しなければと思い始めて、会社を辞めてUCLA(カリフォルニア州立大学)でMBAを取得しました。

―― その後はずっと、金融関係のお仕事ですか?

ナッシュ モルガン・スタンレー、三井信託銀行、プルデンシャル生命で働いた後に独立して香港に行きました。

―― やはり、個人に対する資産運用のアドバイスを……。

ナッシュ いや、香港にいた最初のころは日本に進出しようと考えているアメリカの企業へのコンサルティングが中心でした。ただその時期に、オフショア金融センターのことを聞き、興味をもって、それについて本格的に勉強するためにIFA事務所に入りました。その知識を活かす方法がなにかないかと考えてはいたんです。その時にちょうど、橋本総理のイニシアティヴで日本でもいよいよ「金融ビッグバン」が始まるというのを知って、96年に、香港から日本に拠点を移し、個人の方々に、オフショア金融センターを利用した資産運用のアドバイスをさせていただくようになったわけです。

―― それで、本も出版された、と……。

ナッシュ たまたまダイヤモンド社の人から本を書いてみないかと言われて執筆したのが、『日本人のためのオフショア金融センターの知識』です。この本が思いもかけずベストセラーになって、「ゴミ投資家シリーズ」で取り上げられて、そこから先は、本当に目の回るような展開ですよ(笑)。

―― 本はすべて、日本語で執筆されたんですか?

ナッシュ はい。私なりに日本の現状を見ていて、これだけはどうしても伝えておかなければならない、という思いがあったので、一生懸命頑張りました。

―― その「思い」というのは、具体的にはどういうものなんでしょう?

ナッシュ ひとつは、ある一部の人たちが私腹を肥やし、そのツケを国民に負担させようという、そのえげつなさに腹がたったということ。「いつまでも黙って耐えていることはないんだ」ということです。
 もうひとつは、「ビッグバン」という言葉が流行するなかで、どこからともなく現れてきた「にわかコンサルタント」に騙されないようにしよう、ということです。そのためには、「個人の資産運用」の基本をきちんと学ばなければならない。そうすれば、ファイナンシャル・プランニングや金融学の専門知識などないに等しい“ニセモノ”にだまされるようなこともなくなります。
 私が自分の本や「資産運用の学校」で日本のみなさんにお伝えしたいのは、突き詰めて言えば、このふたつのことです。

―― そうした「基本」は、これから「資産運用の学校」でひとつひとつ解説されていくのでしょうが、簡単に言うと、どういうことなんでしょう?

ナッシュ 私の主張は、非常にシンプルです。まず、自分の人生のニーズ(どうしても必要な資金)とゴール(達成したい目標)を見極めて、人生設計のプランをつくること。そのうえで、それぞれの人生プランを実現させるために、もっとも適した資産の運用方法を考えること。その際には、リスクの大きな株式に資産の大半を投じたり、直近の利回りがいいからといってひとつの金融商品だけに投資したりするのではなく、モダン・ポートフォリオ理論にのっとった正しい分散投資を心がけなければなりません。これは欧米では当たり前のことですが、日本ではまだまだ理解されていない。そうした無防備な状態で国際市場という荒海に漕ぎ出すのは、あまりにも危険です。

―― 日本人のなかには、アメリカ人であるナッシュさんが、なぜそれほどまで日本人の現状や将来を憂うるのか、不思議に思う人もいると思うのですが……。

ナッシュ うーん。難しい質問ですが、それはたぶん、幼い頃、日本にいたせいでしょう。私の価値感はアメリカ人よりも日本人に近いのでしょうね。日本にいるほうが楽しいし、リラックスできるんです。それと、私自身が仏教徒だということも関係あるかもしれません。

―― ナッシュさんは仏教徒なんですか!?

ナッシュ そうですよ(笑)。日蓮正宗の信徒です。ただ私の場合、どの宗派かというのは問題ではなくて、法華経の教えがきちんと学べるところならどこでもよかったんです。

―― 仏教に興味をもたれたのは、いつ頃ですか?

ナッシュ 高校生の時ですかね。その頃はアメリカに住んでいたんですが、仏教関係の本を読み漁りました。

―― キリスト教には違和感があったとか。

ナッシュ そうですね。私はカソリック系のインターナショナル・スクールに通っていまして、そうしたなかで、キリスト教には矛盾する点を感じることがありました。キリスト教というのは、乱暴に言えば、月曜から土曜までを騙して商売していても、日曜日に教会で懺悔すればそれで罪は許されるという教えでしょ(笑)。私にはそれが、どうしても納得できなかった。その時に仏教の「因果応報」の思想に触れて、「これだ」と……。いいことをすればいいことがあるし、悪いことをすれば必ずそれが自分にかえってくる。私はそう信じています。

―― 今は仏典も日本語で読まれているんですか?

ナッシュ いや、英語です。ただ毎朝、勤行はしてますけど。

―― 朝早く起きて、法華経を唱えているんですか?

ナッシュ そうです。毎朝4時に起きて、勤行をしてから体を鍛えて、それから事務所に出かけるというのが日課になっています。そのかわり、夜は9時くらいからうたた寝してしまいますけど(笑)。

―― 体を鍛えるって、なにをしてるんですか?

ナッシュ 空手をずっと習っていたので……。

―― 仏教に空手ですか。私たちよりも、ずっと日本的ですね(笑)。

ナッシュ いやいや、そんなことはないですよ(笑)。ただ、私は武道の精神が好きなんです。股割りもできますよ(笑)。それに、テレビは時代劇を見るし、日本的な義理人情の世界が好きですから、やっぱりちょっと変わってるかもしれませんね。杉良太郎が演っていた頃の『遠山の金さん』がいちばんよかった。涙が出ましたよ。

―― ちょっとじゃなくて、かなり変わってますよ(笑)。ナッシュさんにとって、日本というのはどんな国なんですか?

ナッシュ 私は、自分が子ども時代を過ごした日本が大好きなんです。日本がまだ無邪気というか、イノセント(純真無垢)だった時代ですね。言葉は悪いかもしれませんが、バブルの時代を経て、どこかスレてしまったような気がして、残念です。でもそれは世界的にどの国も同じでしょう。
 それに、他の先進国に比べて、日本はやはり暮らしやすい国ですね。夜ひとりで歩ける先進国が他にあるでしょうか? レストランに入っても、チップもとらずに「ありがとう」と笑顔で言ってくれる国は他にない。そうしたところが好きですね。
 価値観の問題だと思いますが、日本の人が外国に永住したがる気持ちが私にはよくわかりません。とはいっても、やはり、税金の問題があるんでしょうね。

―― 最後にひとつだけお伺いしたいのですが、これから私たちはどのようにして、自分の大切な資産を守り、運用していけばいいのか、そのいちばんのポイントはなんでしょう?

ナッシュ 私がいつも言っているのは、「資産運用は人生という航海の海図である。投資商品は、航海のための乗り物である」ということです。目的も地図もなしに、ただ乗り物だけを選んでも、意味はありません。しかし多くの日本人は、人生設計よりも乗り物選びに熱心です。これでは、目的と手段が逆転しています。

―― しかし、アメリカ株の熱狂などを見ていると、「資産運用」の本場であるはずのアメリカでも、乗り物選びが大繁盛のようです。

ナッシュ 確かに一部熱狂している人たちもいるようですね。アメリカの好景気のなかで、儲け話が周りにたくさんありすぎて、欲が優先して我を忘れてしまっている人もいるのではないでしょうか。でもその反面、アメリカでは「個人の資産運用」を考えるための参考書がたくさん出版されて、実際に売れているんですよ。
 私は、株式投資を否定するつもりはありません。ただそれは、自分のポートフォリオをきちんと組んだ後に、リスクを限定して、できれば余裕資金で行なうべきものです。しかし、タバコの害が科学的に証明されても愛煙家がなくならないのと同じように、モダン・ポートフォリオ理論が正しいことがわかっていても、ギャンブルしたい人はいる。
 それこそ個人の価値観の問題でしょうが、私は保守的な性格なので、着実に人生を歩んでいこうと考える人たちのお手伝いができれば、と思っています。

(1999年4月)


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