Takuya Arai
荒井拓也 氏インタビュー

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荒井拓也(TAKUYA ARAI)
早稲田大学より経済学・数理経済学の学士号・修士号を取得。東京銀行(現・東京三菱銀行)に入社。日米の株式・債券のシニアファンドマネージャーを歴任。その後、米国株式及び米国ミューチャルファンドへの投資を専門にするBenkei Core Fund社を設立。ニューヨーク在住。著書「1,000ドルから本気でやるアメリカ株投資(NTT出版)」


――オンライン・トレーディングでアメリカ株を購入する日本人が増えていますが、どうお感じですか?

荒井 確かに、アメリカ株は安いお金で始められるからやり易いといえばやり易いんですけどね。ただ、アメリカ株には「投資」というゲームで世界中から腕に自信のある人たちが集まってくる。僕は、アメリカのマーケットは投資の大リーグだと思ってるんです(笑)。企業、個人投資家、ベンチャーキャピタリスト。一流どころが集まってくるから甘くみない方がいいというのが実感ですね。常に勝つことは、なかなかむずかしいと思います。

――英語をネイティブ同様には理解できない日本人が、英語圏の人に伍してアメリカ株に投資していくことは可能でしょうか? また日本人がアメリカ株に投資するアドバンテージはあるんでしょうか?

荒井 やはりディス・アドバンテージ(不利な要素)の方が多いですね。まず、英語に対する理解力。日本だから地域的にも情報が限られますね。僕は今、『ウォールストリート・ジャーナル』『ニューヨークタイムズ』はもちろん、『ビジネスウィーク』『バロンズ』『ワイアード』『レッドへリング』といった雑誌を毎日読んで情報収集していますが、こういう情報の流れをウォッチするのは日本では大変でしょう。逆に、僕の環境には日本の情報はありません。ニューヨークで日本経済新聞を読んだとしても、限界があります。日本に居住していれば、自然に情報は入ってくるんでしょうけど……。

あとは、時差かな。マーケットが開くのが、日本の午後10時半ですね(夏時間の場合)。寝不足になっちゃいますよ。そう考えると立場的には不利でしょう。しかし、この点は取引時間の延長やNasadaqの日本上陸などで長期的には解決していく問題であるのであまり心配する必要はないのかもしれないですが。

アドバンテージがあるとしたら、マーケットから離れている分、クールに眺められるといえばいえるでしょうね。目の前で大暴落とか、急激なアップダウンがあるとみんながパニックになるから、「わあ、コワイな」と思って萎縮しちゃう。日本にいれば、ジワジワ株が落ちていく恐怖もそれほどリアルじゃないでしょう。

――日本人向けの投資方法はないということですね。

荒井 人種というより、どう情報を収集し生かしていくかという個人の問題でしょう。

――インターネットからも、ずいぶん企業情報が取れるようになってますけど、荒井さんが情報収集するのは紙ベースですか?

荒井 「インターネット」と「紙」は情報の質が違っていると思います。『ビジネスウィーク』や『フォーチュン』とかは、いわば、アンテナですね。まずは、何に投資するかという投資アイデアを得るのが大変でしょう? だいたい1万社くらいありますからね。しかもIPOもある。目移りするには充分の数です。

でも、沈みかけとか沈んで動かない時じゃなく、上がりかけ、動きかけの株を買うのがいい。そうすると1万社×タイミングということで、それを見極めるのに苦労します。いい会社をいいタイミングで買う。これが鉄則です。

「紙」で投資アイデアがまとまったら、今度はネットでより深く情報収集するスタイルを取っています。

――まず初めに地道な情報収集があるわけですね。

荒井 そうですね。(新聞の山を指しながら)『バロンズ』だってこんなですよ。これが1週間分。手際よくやるしかないですね。いいソースに絞って、情報をうまく右から左に流す。これで一発当てようとか、それじゃあリスキー過ぎますよ(笑)。

――荒井さんは株式の長期保有を原則とされていますね。長期保有のメリットとは何ですか?

荒井 長期保有と言っても「長期に保有するに値する株を持て」ということです。長期に持っていても何も起こらない株をしまっておいても腐るだけですから、そういうのは駄目ですよ(笑)。
長期にわたって上がる可能性のある株というのは、「長期にわたって強い事業を展開できる企業の株」という意味です。ただ、株式市場には波があります。企業に問題が起こったりもする。だから、そういう時にこそ長期保有に値する銘柄を買い増していく。資産形成ですね。そんなにむずかしい話じゃないですよ。ここで買ってここで売ってここで買ってここで売る、という忙しい投資ではなく、有望な企業を分析してここで買って、またここでも買ってというどっしりとした投資をしていくわけです。

――それには、未来を予測できる能力が関係してきますね。トレンドを読むことができないとむずかしいと思うんですが、BenkeiUSAに参加されているみなさんは、業種を絞っているんですか?

荒井 そうですね。見ているとみなさん、好きな業種があるようです。気に入った業種を選べばいいと思いますよ。よく「この株が買いだ」という記事がありますが、そういうのに踊らされることなく、自分が好きだとか、あるいは興味ある業種で情報収集していくのが健全です。「この株が買いだ」というのは嘘が多いですね。こんなのよく薦めるよな、というのもありますよ。

――ネット株が注目されていますが、値動きが激しいものに投資することをどう思いますか?

荒井 ネット株は、とくにデイトレーダーによって動かされている傾向が強いです。デイトレーダーでケロッグを買うやつはいない。僕は逆に、長期保有でインターネット株をやっていこうと思っているんですよ。

いろんな人が「ネット株はバブルだ」というけれど他の分野にもバブル株はあります。たぶん、3年後5年後にこの会社はないな、というバブル株すらある。でも逆に、本当にいい企業で、サイバースペースでずっと生きていく会社もあるわけです。サイバースペースも喩えてみれば1丁目がやっとできたところですから、そこには、バブルな株もあるし有望な株もある。それはインターネット株だけじゃなくてどんな分野の株でもそうです。

――日本で「株」というと、まだまだダーティなイメージがあるのですが、今、すごい数のアメリカ人が株に投資しているといいます。アメリカ人の「株」へのイメージはどうですか?

荒井 流行のはじめは401K、つまり年金ですね。年金の選択肢の中に株があって、80年代から個人の生活に入ってきました。それまでは1-2割の家庭しか株を持っていなかったけれど、今は7割の家庭が何らかの株を持っているといいます。これは、よくわからないまま申し込み用紙に丸をつけたファンドが株式ファンドだった、というものも含めてですけどね(笑)。すーっとアメリカ人の生活に入ってきた感じでしょうね。

あとは、業界も、まともな投資の仕方を地道にプロモーションしていますからイメージがいい。個人レベルでも、投資クラブみたいなものがあってグラスルーツ(草の根)的に集まって情報交換をしています。株の始まりということから考えてみても、イギリスが、アメリカ国内に鉄道とか橋をつくる会社を作ってそこに投資するところから始まっていますからね。

日本だと、株屋の世界、米相場から来てるでしょ。大阪の北浜で江戸時代に先渡取引が始まった。これが、世界で初めてのデリバティブだといいますけど、もともと「博打」とか「勝負」の世界のイメージ。だから、どうしても株=ダーティとなりやすい。日本の株へのイメージは変えていかなければいけないですね。

――最後に、これから株式投資を始める初心者へのアドバイスをお願いします。

荒井 まず目的でしょうね。何で株をやるのか。お金儲けも性格があると思うのです。

競馬のかわりなら、金融取引の中には、すぐに倍にも3倍にもなるものがある。フューチャーというアメリカの先物取引だと、それをやっている7割の人がスリルを求めているそうです。あまりお金云々ではない。得る金も失う金も注込んだお金に対する比率としてはデカイから、刺激がほしいなら最高です。株式投資でもこのようなスリルを味わうのが目的なら、マージン口座などを利用することによりかなりのスリルを味わえますよ。そういうひとはお小遣い程度の小さな金額でちょくちょくやればいいと思います。

しかし、ちゃんとした人生設計の中での資産形成であれば、5年後、10年後を視野に入れて株を考えなければいけません。そういう金を僕はリアルマネーと呼んでいますが、そうであれば、それなりの投資方針を確立しなければいけません。

いきなり投資の世界に入っていってアブク財産はできない。自分という「資産」のアドバンテージとディスアドバンテージを考えて、自分のできる範囲で投資計画を立てる。

株を買う前に企業のことを研究するのと同じように、投資の世界に入る前に投資自体を研究しましょう、ということですね。「自分自身の目的を見つめる」ところから始めるようにして下さい。

(1999年6月 インタビュー・構成/山田雅久)


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