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海外投資実践マニュアル(7) 

アメリカ2 U.S.A.2


アメリカ投資と税金

アメリカで譲渡所得、利子・配当所得は源泉徴収課税の対象となり、給与などの他の所得と合算してタックスリターンTax Returnと呼ばれる確定申告によって精算することになっている。なぜタックスリターンかというと、源泉徴収が多めに設定されているので、ほとんどの人は確定申告によって税金が返ってくるから。実際、株式の売却益や配当に対する源泉徴収は約30%と、日本に比べてもかなり高くなっている。

そこでアメリカ政府は、外国人投資家の米国市場への投資を促進するためにさまざまな優遇措置を採用している。この優遇税制は、W8と呼ばれる非居住者証明の提出によって享受できるようになる。

W8を提出した日本人(米国非居住者)の主な金融所得に対する税率は、日米租税条約により下記のように定められている。

・ 銀行預金の利子:非課税
・ 株式の売却益:非課税
・ 株式の配当:10%の源泉徴収に軽減
・ 債券の売却益:非課税
・ 債券の配当:10%の源泉徴収に軽減
・ ミューチュアルファンドの売却益:非課税
・ ミューチュアルファンドの配当:10%の源泉徴収に軽減

 ここで注意しなければならないのはADR銘柄に投資した場合の配当課税。こちらはアメリカの税優遇措置とは無関係に、源泉徴収率は源泉地国(当該企業の所在地国)とアメリカとの租税条約によって決まる。国によっては配当に対して30%ちかい源泉徴収が課せられることもあるので、高配当銘柄に投資している場合はパフォーマンスに大きく影響する。

それを避けるには、現地の証券会社に直接、口座を開設して投資したり、香港など別の地域の証券会社を通じて投資した方が有利なこともある。このあたりの国際課税は複雑なので、保有するADR株が高率の配当課税の対象となる場合は、各自で試行錯誤してほしい。なお、ADRであっても売却益非課税は同じ。

日本国の居住者が海外の金融機関で得た利益は、国内所得と合算して申告・納税の対象となる。基本的なルールは以下のとおり。

1)銀行預金

・為替損益は円転した(損益が実現した)時点で計算し、雑所得として総合課税。
・利子は発生日のTTMレートで円換算し、利子・配当所得として総合課税。利子所得のうち海外で源泉徴収された税額は、外国税額控除の対象となり、制限税率の範囲で控除される。

2)株式

・売却益は売却した日のレートで円換算し、株式譲渡益として申告分離課税。
・海外の株式の損益は国内の株式と損益通算可能。
・国内株式に対する税優遇措置は適用されない。
・配当は発生日のTTMレートで円換算し、利子・配当所得として総合課税。配当所得のうち海外で源泉徴収された税額は、外国税額控除の対象となり、制限税率の範囲で控除される。ただし配当控除は受けられない。

3)債券

・利付債の譲渡益は非課税。
・利付債を中途売却・円転した場合は為替差益を含め非課税。
・利付債を満期で償還後、円転した場合は為替損益を含め雑所得として総合課税。
・配当は発生日のレートで円換算し、利子・配当所得として総合課税。配当所得のうち海外で源泉徴収された税額は、外国税額控除の対象となり、制限税率の範囲で控除される。
・割引債の利益は譲渡所得として総合課税。

4)投資信託

・ミューチュアルファンド、ETFなどの会社型投信は株式と同じ扱い。
・契約型ファンドは債券と同様の扱い。
・配当(再投資された配当も含む)は発生日のTTMレートで円換算し、利子・配当所得として総合課税。配当所得のうち海外で源泉徴収された税額は、外国税額控除の対象となり、制限税率の範囲で控除される。

なお年収2,000万円以下の給与所得者の場合、年間20万円までの雑所得は申告不要となっている。したがって、分離課税である株式譲渡益以外の所得の合計が円換算で20万円以下の場合(他に給与以外の所得がなく、医療費還付などの確定申告もしていない場合)、申告・納税の必要はない。

不明な点がある場合は国税庁や税務署で詳細を確認のこと。


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