小富豪のためのタックスヘイヴン入門


[目次]

 

FAQ3 海外銀行の選び方

Q1 どのような基準で海外の銀行を選べばいいのでしょうか?
Q2 海外の銀行は、地域によって特徴があるのでしょうか?
Q3 オフショアの銀行にはどのような特徴があるのでしょう?
Q4 香港の銀行にはどのような特徴があるのでしょうか?


Q1 どのような基準で海外の銀行を選べばいいのでしょうか?
A 海外の銀行を選ぶ際の基準は、信頼性、アクセス、オペレーションです。以下、個別に説明します。
1)信頼性
 大事な資金を預けるわけですから、経営破綻してしまったり、資金が行方不明になってしまうようなところでは困ります。大手金融機関の子会社で、なおかつ格付の高い(A格以上、できればAA格以上)銀行を選ぶべきでしょう。
2)アクセス
 せっかく口座を開いても、そこから資金を動かせなくなってしまっては意味がありません。海外の銀行の中には、現地の支店窓口でなければ出金できない口座や、電話をかけなければ送金できない口座もあります。少なくとも、日本で出金可能なATMカードが発行され、インターネットで送金指示のできる銀行を選ぶべきです。
3)オペレーション
 海外の銀行、とくに小さな島国にあるオフショアの銀行では、日本の銀行のようなきめ細やかな顧客サービスは期待できません。それでも送金などの指示が迅速に行なわれ、トラブル処理も的確な銀行でなければ、安心して資金を預けることはできません。
Q2 海外の銀行は、地域によって特徴があるのでしょうか?
A 私たちは、日本人利用者の立場から、海外の銀行を以下の4つのタイプに分けています。
1.アメリカの銀行
 日本人が「海外の銀行」と聞いてまずはじめに思い浮かぶのがアメリカの銀行でしょう。しかしアメリカは国民総背番号制の国で、SSN(Social Security Number)と呼ばれる社会保障番号で全国民の資産を一元管理しているため、SSNを持たない個人がアメリカの銀行に口座を開設することは原則不可能です。
 このSSNはアメリカ国籍や市民権を取得しなくても、労働ビザなどを取得すれば発行されます。またアメリカ非居住者でも、ITIN(Individual Tax Identification Number)という納税者番号を取得することで口座開設可能な銀行もあります(このITINは日本国内のアメリカ大使館で発行してもらえます)。ただしここまでしてアメリカの銀行に口座を開設する必要があるかどうかは疑問です。後述するように、オフショアや香港の銀行を利用してもほぼ同じメリットを享受することができるからです。
 なおハワイはリピーターの日本人観光客が多いことから、日本人ならSSNを持たなくても、パスポートだけで口座開設してくれる銀行があります。米西海岸を拠点とする大手のウェルズ・ファーゴ銀行Wells Fargoのように、海外顧客向けの専門部署(IPB=International Personal Banking)を設けているところもあります。また一部の邦銀では、顧客に系列の米国内銀行を紹介するサービスを行なっています。
 どうしてもアメリカ国内の銀行に口座を開設する必要があるのなら、こうした方法を検討してみてもいいでしょう。
2.オフショアの銀行
 私たちが「オフショアの銀行」と呼んでいるのは、チャンネル諸島など、主にヨーロッパのタックスヘイヴンに籍を置く大手金融機関の系列銀行です。カリブや南太平洋のタックスヘイヴンにもオフショアバンクは数多くありますが、日本人が利用する機会は多くなく、アクセスや信頼性に問題のあるところもあり、あまりお勧めはできません。
 ヨーロッパのオフショアバンクといっても、言葉の問題を考えると私たちが利用できるのは英語圏の銀行であり、検討の対象は限られてきます。
それ以外にもカナダ、オーストラリア、ドイツ、フランス、オランダ、イタリア、スペインなどの大手金融機関の系列オフショアバンクが多数存在しますが、最初はここで紹介したような英系大手銀行の子会社を利用するのが一般的です。
3.香港の銀行
 香港やシンガポールの銀行は、機能的にオフショアの銀行とは異なります。
 香港の銀行は、中国銀行に代表される中国本土系の銀行と、香港上海銀行など、英系・米系の銀行に大きく分かれます。日本人が主に利用するのは、下記の大手外資系銀行です。
1)香港上海銀行The Hongkong and Shaghai Banking Cooperation Ltd.(香港の発券銀行のひとつ)
2)スタンダード・チャータード銀行 Standard Chartered(香港の発券銀行のひとつ)
3)シティバンク香港Citibank Hong Kong
 香港でも外資系の銀行以外は、仮に外貨預金口座を持っていても香港の非居住者を顧客対象としていないところが多く、広東語と中国語しか通じない銀行もあります。私たち日本人が利用するのはあまり現実的ではないでしょう。
4.プライベートバンク
 一定金額(一般に100万ドル)以上の預金者を対象として資産運用ビジネスを行なうのがプライベートバンクPBです。
 映画や小説に登場するプライベートバンクは、銀行オーナーが預金に対して無限責任を負うパートナーシップで、顧客である資産家は何世代にもわたって家族のようにひとつの銀行と付き合い続けるといわれています。しかし近年、金融の国際化の煽りを受けて、こうしたブティック型の老舗プライベートバンクは少なくなってきました。
 現在、グローバルにプライベートバンキング・ビジネスを展開するのはUBSとクレディ・スイスCredit Swissのスイス2大銀行で、それをシティバンクCitibankやメリルリンチMerrill Lynch、HSBCなどの英米系大手金融機関のプライベートバンキング部門が追走しています。
 これら大手金融機関のPB部門は、顧客と家族ぐるみの付き合いなどしません。顧客が求めるのは、有利な投資機会の提供だからです。
 プライベートバンクの顧客は、IPOなどにおいて、機関投資家並の有利な条件で投資する機会が与えられます。そのぶんリスクも大きくなりますから、それをカバーする充分な資産Assetを積んでおくことを要求されるわけです。
 今後、プライベートバンクと顧客との関係は、こうしたドライなものへと変わっていくでしょう。
Q3 オフショアの銀行にはどのような特徴があるのでしょう?
A もともとイギリス系のオフショアバンクは、海外赴任などでイギリスの非居住者となったビジネスマンや、海外の旧イギリス領に移住した年金生活者などのためにつくられました。彼らは合法的にイギリス国内での課税を免れるため、非課税の資金を安心して預けられる金融機関が必要になったのです。
 こうしたオフショアバンクはチャンネル諸島やマン島などイギリス周辺のタックスヘイヴンに設立されるため、顧客が支店を利用することを想定していません。その意味では、オフショアバンクのビジネスモデルは支店を持たないインターネットバンクによく似ています。
 インターネットが発達する以前は、オフショアバンクの口座にアクセスする方法は手紙か電話・FAXに限られており、言葉の壁に悩まされている日本人にとっては敷居が高いものがありました。しかし現在は、大手銀行の系列であればほぼすべてのオフショアバンクがインターネットに対応しており、残高照会や送金、住所変更など、たいていの手続きがインターネット上で完結します。インターネットは、オフショアバンクにこそもっとも適したツールだったのです。
 オフショアバンクの特徴には、以下のようなものがあります。
・支店も系列ATMも持たないため、VISAカード(通常デビットカード)を顧客に無料で発行する。これがあれば、買い物などに使えるほか、VISAインターナショナルのATMで世界中どこからでも出金できる(日本では郵便局のATMからも出金可能)。
・口座開設をはじめとして、すべての手続きが、支店窓口を通すことなく、郵送・電話・FAX・インターネットで行なえるようになっている。
・米ドル、ポンド、ユーロの主要通貨を主口座にできる(カード決済や小切手決済が主要通貨で行なえる)。
・支店を持たないデメリットをカバーするため、一般の銀行よりも預金金利を高めに設定している。
・住宅ローンや融資などの業務は行なわない。資金運用も、たいていは親銀行が行なう。
・投資信託の販売や株式・債券の取次など、複雑な業務は行なわない。
 要するに、普通(当座)預金口座と定期預金口座(+外貨預金口座)だけの非常にシンプルな銀行、ということです。
Q4 香港の銀行にはどのような特徴があるのでしょうか?
A 香港はアジア有数の金融都市であるばかりでなく、対中国ビジネスの拠点でもあります。したがって香港の銀行は、地元の個人・法人を主要な顧客としてビジネスを展開しています。そのビジネスモデルは、支店を中心とした日本の銀行と変わりません。
 ただし香港には、銀行と証券の壁がないという大きな特徴があります。そのため、香港では銀行が、投資信託だけでなく、株式・債券、あるいは金の売買も行なっています。大半の香港人は銀行で株式の売買を行なっており、このため香港にはリテールの大手証券が存在しません。逆に言えば、銀行に口座ひとつ持っていれば、あらゆる金融商品にアクセスできるということです。
 香港の銀行の特徴には、以下のようなものがあります。
・支店があるため、香港まで行けばすべての手続きが支店窓口で行なえる。
・香港内のどこにでもATMがあり、入出金ができる。
・支店中心のビジネスのため、支店に行かなければできない手続きがある。たとえば口座開設は、原則として香港内の支店窓口で行なわなければならない。
・香港に住所を持たない非居住者にはクレジットカードは原則、発行されない。発行する場合も、1万ドル(約120万円)程度のデポジットを要求される。
・決済通貨が香港ドルになるため、クレジットカードや小切手も香港ドル建てになる(シティバンク香港は米ドル建てのクレジットカードや小切手の発行が可能)。
・投資信託や株式の売買など、多様な金融商品にアクセスできる(香港上海銀行は、非居住者の株式売買は原則扱わない)。


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